2024/11/27
日記
前回、法人税法22条2項(以下、法22条2項)に規定されている無償の譲渡、無償の役務の提供についての概要を見てきました。今回はこの無償取引による収益認識について、どのような根拠で益金となるのか、有力な学説を紹介します。
(1)適正所得算出説
法 22 条 2 項が、無償取引につき収益を擬制する論拠と目的について、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持し、同時に法人間の競争中立性を確保するためであるとする考え方である(金子 宏 『租税法』 弘文堂 P279) 。 金子宏教授は、「法人は営利を目的とする存在であるから、無償取引を行う場合には、その法人の立場からすれば何らかの経済的な理由や必要性があるといえようが、しかし、その場合に、相互に特殊関係のない独立当事者間の取引において通常成立するはずの対価相当額- これを『正常対価』ということにする- を収益に加算しなければ、正常対価で取引を行った他の法人との対比において税負担の公平を確保し維持することが困難になってしまう。したがって、無償取引につき収益を擬制する目的は、法人の適正な所得を算出することにあるといえよう。」と述べられています。 この適正利益算出説を支持する見解は多く、法 22 条 2 項の無償取引の意義についての 現在の通説となっております。
(2)同一価値移転説
無償取引について、正常な対価に係る経済的利益を相手方が受取っている(享受している)のであるから、それと同一の利益が移転しており、そこに収益が発生しているとする考え方(立川正三郎 『平成23年度版 法人税の基礎と理論』 法令出版 P43) 。 つまり、通常の対価に相当する金額が一方の当事者から他方の当事者に移転することをもって収益発生の根拠とみるということです。 同一価値移転説と同様の考え方にたつ判決例として、いわゆる京都証券取引所事件の第一審判決があります。この事件は法22条が創設される前の昭和28年の事案で、金融会社の無利息貸付について、「特別の事情の下になされた利息を付さない貸借において、原告の前記行為により原告は当然得べき右利息相当額の利益を失うに反し、各証券 業者は右利息相当額の支払を免れ、同額の利益を得ることとなるから、これを実質 的に見ると右原告の行為に基因して、原告から各証券業者に右利息相当額の価値の 移転があつたものとしなければならない。」(昭和31年7月30日大阪地裁(昭和28年(行)第83号) D-1 law 判例ID:21007780)と判示して、法 22 条 2 項のような明文規定がなくても、無償による役務提供から収益が生ずるとする考えを示しております。この同一価値移転説に対して、金子宏教授は、「しかし、収益は経済的価値の流入によって生ずると解する限り、この考え方は収益発生の根拠の説明として必ずしも説得的でないように思われる。たとえば、無利息で融資をした場合に、相手方に通常の利息相当額の収益が生ずるという意味で経済的価値の移転があったといえるのはたしかであるが、しかしなぜその反面として貸主に収益が生ずるといえるのかが、この説明では明らかでない。貸主はむしろ得べかりし利益を失うのである。」(金子 宏「無償取引と法人税」法学協会百周年記念論文集第二巻 有斐閣 P161)として本説を批判しています。
その他にも増田英敏教授の租税回避行為否認規程と捉える考え方や、実体的利益存在説、有償取引同視説など、法22条2項の無償取引に対する課税の根拠は諸説あります。
では、法人が被災地などにボランティアで救護活動などを行った場合(無償の役務の提供)、これも益金の認識が必要となるのでしょうか。この点に関しては同一価値移転説や実態的利益存在説では説明は難しいものとなります。現在の通説となっている適正所得算出説でも個人的には説明は難しいと考えます。この法22条2項の無償取引課税の射程距離がどこまでなのかは、さらなる検討が必要なんだろうと思います。
荒井