2025/05/23
日記
5月は、3月決算法人の株主総会が多く開催される時期です(上場会社では6月開催が多いですが)
この定時株主総会において、役員の改選や退任が行われ、退任する役員に対して退職金を支給するケースがあります。
ただし、役員退職金は金額が大きくなりやすく、税務上の取り扱いを誤ると、思わぬ課税が発生する恐れがあります。
①役員退職金の損金算入の取り扱い
支給された退職給与について、業務に従事した期間や退職の事情、類似法人での支給状況等と比較して「不相当に高額」であると認められる部分は、法人税法上、損金に算入されません(法人税法34条、施行令70条)
②役員の「退職」とは
法人と役員との間の委任関係が終了し、勤務上の拘束が解除されることを意味します。
典型的には、任期満了、辞任、解任、死亡などが該当します。
なお、形式上は退任していなくても、いわゆる「分掌変更」により実質的に経営から退いたと判断できる場合には、例外的に退職と同様の扱いが認められ、退職金の支給が損金算入されることもあります。
③分掌変更等での退職金支給が認められる要件
分掌変更等により退職金を支給する場合、次のような状況が想定されます。
・常勤役員から非常勤役員への変更
・取締役から監査役への変更
・分掌変更後の役員報酬が大幅に減額されている(目安として50%以上)
これらの要件に加えて、実際に経営の意思決定や業務執行から退いていることなど、実質的に退職と同様の状態にあると認められることが必要です。
④実質的に退職と認められるための注意点
役員としての身分が継続していたとしても、実質的に経営権が喪失しているかどうかが判断のポイントです。
例えば、代表取締役が勇退して平取締役に就任した場合でも、引き続き経営に関与し、意思決定関与しているようであれば、退職とはみなされません。報酬を形式的に50%以上減額しただけでは不十分です。
経営権の喪失を明確にするためには、代表取締役を退任すると同時に平取締役にも就任せず、取締役会の構成員から完全に外れることで、経営判断への関与を断つことが有効です。
また、株式も後継者に譲渡しておけば、株主総会での影響力を排除され、より実質的退職と認定されやすくなります。
⑤支給の方法と損金算入のタイミング
このような分掌変更による勇退の場合の退職金は、通常の退職とは異なり、税務上慎重な対応が求められます。
損金算入が認められるためには、実際に金銭又は時価評価が妥当な資産で支給することが必要であり、未払計上(未払退職金)は原則として認められません。
実務上の対応例
退職金を確実に損金算入するためには、以下のような対応を取ると良いでしょう。
1.登記上、取締役から退任する
2.所有株式も後継者に譲渡する
3.退職金を当該事業年度内に全額支給する
まとめ
役員退職金は金額が大きく、損金算入の可否が法人税額に大きな影響を及ぼします。
実質的な退職かどうか、金額が妥当か、支給時期と方法が適切かを慎重に検討し、税務調査でも説明可能な証拠(議事録・契約書など)を整備することが重要です。
石田