不動産売買の「時価外取引」に潜む税務リスクとは? ~親族間・同族会社との不動産売買における課税関係を事例解説~

2026/10/20

日記

不動産取引では、第三者間の売買であれば取引価格がそのまま「時価」として認められるのが原則です。しかし、親族間(個人対個人)や役員とその同族会社間(個人対法人)で取引を行う際、「時価より著しく高い価格(高額売買)」や「時価より著しく低い価格(低廉売買)」で売買を行うと、税務署から経済的利益の移転(贈与や給与、受贈益など)があったとみなされ、課税(税務否認)のリスクが発生します。

本記事では、個人が親族への不動産売買、個人が同族会社への不動産売買における「実勢価格(時価)」の考え方から、各種取引パターンごとの税法上の取り扱い、否認リスクまでを分かりやすく解説します。

 

  1. 実勢価格(時価)の主な算出方法

税務上のリスクを回避するために最も重要なのが、取引価格が「時価」に基づいているかです。税法上、不動産の時価とは「客観的かつ自由に売買が行われた場合に成立すると認められる価格(正常な取引価格)」を指します。実務では主に以下の方法で確認・算出します。

① 不動産鑑定士による「鑑定評価」

  • 概要: 国家資格者である不動産鑑定士に評価を依頼し、「不動産鑑定評価書」を作成してもらう方法です。
  • 税務上の扱い: 税法・裁判例において、客観的な時価を立証する有力な資料の一つとなります。

② 類似取引事例比較法(周辺の取引相場)

  • 概要: 対象不動産の近隣で、条件(立地・面積・築年数等)が似ている物件の成約事例を参考に算出する方法です。
  • 確認手段: 国土交通省の「不動産ライブラリ(旧:不動産取引価格情報)」や、レインズ(REINS)の成約情報などを活用します。
  • 税務上の注意点: 個別要因(間口の狭さ、形状、日当たり等)が反映されにくいため、単なる平均単価の算出だけでは税務上の根拠として不十分とされるケースがあります。

③ 不動産会社による「査定価格」

  • 概要: 不動産業者に現地調査を依頼し、売買査定書を発行してもらう方法です。
  • 税務上の注意点: 1社のみの査定では「当事者に都合の良い価格を作成した」と疑われるリスクがあるため、1社だけではなく複数社から査定を取得し、査定条件や根拠を比較しておくことも有効です。

 

💡 相続税評価額(路線価)は「時価」ではない?

「路線価=税法上の時価」ではありません。相続税路線価は公示価格の約8割を目安に設定されているため、実勢価格(時価)より低いのが通常です。親族間売買で「路線価で売買したから安全」と考えていると、後述する「みなし贈与」と判定されるリスクが生じます。

 

  1. 個人対個人の取引

個人間の取引では、売買価格と時価との乖離によって「贈与税」の問題が生じやすくなります。

①【低廉売買】時価より安く売った場合

  • 売り手のリスク:

原則として、実際の売却価額を収入金額として譲渡所得を計算します。ただし、低額譲渡によって譲渡損失が生じる場合には、損失の取扱いや各種特例の適用について注意が必要です。

  • 買い手のリスク(みなし贈与):

相続税法第7条に基づき、「著しく低い対価」で譲り受けた場合、時価と売買価格の差額に対して「贈与税」が課されます。

⚖️ 税法・判例上の判断基準と注意点

税法上、「いくら以下なら『著しく低い』と言えるのか」という具体的なパーセンテージ等の数値基準は明文で存在しません。

裁判例や公表裁決(国税不服審判所)では、客観的な時価に対し「当事者間の合意価格が社会通念上不相当に低いか」を個別・総合的に判断します。そのため、「〇〇%引までなら絶対安全」と一概に断言することはできません。

【具体事例】親から子へ自宅土地を安値で譲渡

  • 状況: 時価(実勢価格)5,000万円の土地を、父親が息子へ「相続税評価額(路線価ベース)」である3,500万円で売却した。
  • 税務上の否認リスク: 時価5,000万円に対して3,500万円という価格が、その不動産の個別事情等を踏まえて「著しく低い価額」と判断された場合には、原則として時価との差額1,500万円について息子に贈与税が課税されるリスクがあります。

②【高額売買】時価より高く売った場合

  • 売り手のリスク:

原則として実際の売却価額を基に譲渡所得を計算します。ただし、売買価額が客観的な時価を著しく上回り、その超過部分について不動産の譲渡対価としての合理的な理由がない場合には、その超過部分が譲渡所得ではなく、買主から売主への贈与その他の経済的利益の移転と認定される可能性があります。

 

  • 買い手のリスク:

時価を著しく上回る金額を支払った場合でも、その超過額が当然贈与となるわけではありません。ただし、親族間などで合理的な理由がなく高額な対価を支払っている場合には、超過部分について実質的な贈与と認定されるリスクがあります。

 

  1. 個人対法人の取引(オーナー経営者・役員と同族会社など)

個人と法人の間での取引は、法人の利益操作や資産移転に使われやすいため、税務調査で特に厳しく確認されます。

①【低廉売買】個人が法人へ安く売った場合

  • 売り手(個人)のリスク(みなし譲渡所得):

所得税法第59条第1項第2号により、時価の「2分の1未満」の価格で法人に譲渡した場合、「時価で売買したもの」とみなされて所得税が課税されます(みなし譲渡所得)。

  • 買い手(法人)のリスク(受贈益):

法人税法上、法人は時価で取得したと扱われるため、「時価と購入額の差額」が受贈益(雑収入)となり、法人税の課税対象になります。

【具体事例】社長が所有不動産を自社法人へ格安で売却

  • 状況: 社長が所有する時価1億円の自社法人が本社として使用しているビルを、社長個人から経営する会社へ4,000万円(時価の2分の1未満)で譲渡した。
  • 税務上の否認リスク:
    • 社長個人: 4,000万円で売ったにもかかわらず、「1億円で売った」ものとして譲渡所得税が計算・課税される(みなし譲渡課税)。
    • 会社(法人): 差額の6,000万円が「受贈益」とみなされ、法人税が課税される。

②【高額売買】個人が法人へ高く売った場合

  • 売り手(個人)のリスク(役員給与・賞与認定):

売主が法人の役員である場合、時価を超える金額は「会社から役員への実質的な利益供与」と判断され、「役員給与(役員賞与)」として処理されます。その結果、高額な所得税・住民税が追徴されるリスクがあります。

  • 買い手(法人)のリスク(役員賞与の損金不認容):

時価を超える支払額が役員給与と認定された場合、通常は定期同額給与や事前確定届出給与等の要件を満たさないため、法人税法上、損金算入が認められない可能性があります。

 

【具体事例】社長が所有土地を自社法人へ高値で売却

  • 状況: 時価3,000万円の土地を、社長から自社へ8,000万円で売却した。
  • 税務上の否認リスク:
    • 会社(法人): 時価を超過する5,000万円が「役員賞与」と認定された場合には、原則として会社の損金(経費)として認められず、法人税が課される。
    • 社長個人: 5,000万円は「譲渡所得(分離課税:税率約20%)」ではなく「給与所得(総合課税:最大税率約55%)」と判定され、所得税・住民税が跳ね上がる。
  1. 取引パターン別リスク一覧
取引形態 時価より高額(高額売買) 時価より低廉(低廉売買)
個人 対 個人 ・過大支払分(時価超過額)は

買主から売主への「贈与」その他の経済的利益の移転が問題となる場合あり。

・買主にみなし贈与税(相続税法7条)の可能性

 

・売主は原則、実際の売却価額で譲渡所得計算

個人 対 法人 ・超過分は売主への「役員給与/役員賞与」認定

 

・法人側で給与の損金不認容

・時価2分の1未満の場合、売主にみなし譲渡所得(所得税法59条)

 

・法人側に受贈益課税

 

  1. まとめ

親族間(親子・兄弟など)や同族会社間での不動産取引では、「身内同士の取引だから」と独自の価格設定をしてしまいがちです。しかし、税務署は不動産登記情報や申告内容からこうした特殊関係者間の取引を非常に厳格にチェックしています。

税法上「時価」の解釈は個別の事情(形状、利用状況、周辺取引等)によって異なり、明確な一律の基準で判断できないケースが多いため、自己判断で価格を決めず、契約前に私たち税理士などの専門家へご相談いただくことを強くお勧めします。

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石田